技術統括委員会委員長 小野 和也

6月13日に食品衛生法等の一部を改正する法律が公布され、国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制が公布の日から起算して2年以内に導入されることが決まりました。規制のあり方と目指すべき方向性については、食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会の「取りまとめ」に総括されています。
昨年9月発行の協会だよりでは、平成20年厚労省器具・容器包装部会における新しい規制方法の検討開始から、乳等省令で定める器具・容器包装の規格基準と他の器具・容器包装の規格基準との統合の議論も含めて、「取りまとめ」に至るまでの経緯を簡単に紹介しました。さらにその後法律公布までの過程については、7月4日に開催した食品用器具及び容器包装の規制に関する会員説明会において簡単にお話しました。現在、具体的な規制に内容については「食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関する技術検討会」において議論されています。ここでは改正された食品衛生法に基づき導入される新たな制度と、技術検討会での論点についてお伝えします。
「7月4日食品衛生法改正説明会:40名参加」

1.新制度の導入について

1-1. ポジティブリスト制度

食品衛生法第十八条に次の一項が加わりました。

「器具又は容器包装には、成分の食品への溶出又は浸出による公衆衛生に与える影響を考慮して政令で定める材質の原材料であっては、これに含まれる物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を除く。)について、当該原材料を使用して製造される器具若しくは容器包装に含有されることが許容される量又は当該原材料を使用して製造される器具若しくは容器包装から溶出し、若しくは浸出して食品に混和することが許容される量が第一項の規格に定められていないものは、使用してはならない。」(以下省略)

これまでの検討会では食品接触面に使用される合成樹脂を規制するとされていましたが、上記の条文に基づき、現在、食品用器具及び容器包装で使用されている合成樹脂のうち、食品に直接接触する合成樹脂、および食品に接触しない合成樹脂のうち、これに含まれる物質が食品側に移行することが否定できないもの、についてポジティブリストに収載するための調査が厚生労働省食品基準審査課により実施されています。
具体的には、業界団体を通して国内で流通している食品用器具及び容器包装で使用されている合成樹脂について各種規制への適合性を調査しており、当協会においても会員各社にて調査を行っているところです。国内ではポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会、塩化ビニリデン衛生協議会(三衛協)がそれぞれ自主基準として原材料の衛生基準を作成し、それに基づくポジティブリストおよび確認証明書制度を運用しています。現在三衛協のポジティブリストに収載されている原材料は、今後告示されるポジティブリストに収載される予定です。

ところが、これら協議会への参加は任意であり、現在多くの海外製合成樹脂が器具・容器包装やその原材
料として輸入されているものの、加盟している海外の合成樹脂メーカーはわずかです。
これに対しこれまでの検討会では、従来から国内で食品用器具・容器包装で使用されている既存物質ではこれまで大きな健康被害が確認されていないことを踏まえ、諸外国の規制に適合して安全性が確保されている場合には引き続き使用することを配慮する必要があるということが確認されてきました。現在実施している調査は、米国FDAやEUの規制に適合して現在流通している原材料についてもポジティブリストに収載していくための作業です。

1-2. 製造管理

下記に示す食品衛生法第五十条の三が新設され、厚生労働大臣により①器具・容器包装を製造する営業の施設における、施設内外の衛生保持、人的な衛生管理を含めた全般的な衛生管理基準、および②食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な適正な製造管理のための取り組みに関する基準、が定められます。

第五十条の三
「厚生労働大臣は、器具又は容器包装を製造する営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置(以下この条において「公衆衛生上必要な措置」という。)について、厚生労働省令で、次に掲げる事項に関する基準を定めるものとする。
一 施設の内外の清潔保持その他一般的な衛生管理に関すること。
二 食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な適正に製造を管理するための取組に関すること。
器具又は容器包装を製造する営業者は、前項の規定により定められた基準(第十八条第三項に規定する政令で定める材質以外の材質の原材料のみが使用された器具又は容器包装を製造する営業者にあっては前項第一号に掲げる事項に限る。)に従い、公衆衛生上必要な措置を講じなければならない。」(以下省略)

1-3. 情報伝達

ポジティブリストに適合であることを情報提供することに関する条文として、第五十条の四が新設されました。器具・容器包装の製造、輸入者は、販売先に対して製品で使用されている原材料の規格適合性について説明義務が課せられます。一方、器具・容器包装製造者に対する原材料製造者の説明は努力義務となっています。これは図1に示すように、原材料メーカーは今回のポジティブリスト制度による国のリスク管理の対象外となっているためです。

五十条の四
「第十八条第三項に規定する政令で定める材質の原材料が使用された器具又は容器包装を販売し、又は販売の用に供するために製造し、若しくは輸入する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その取り扱う器具又は容器包装の販売の相手方に対し、当該取り扱う器具又は容器包装が次の各号のいずれかに該当する旨を説明しなければならない。
一 第十八条第三項に規定する政令で定める材質の原材料について、同条第一項の規定により定められた規格に適合しているもののみを使用した器具又は容器包装であること。
二 第十八条第三項ただし書に規定する加工がされている器具又は容器包装であること。
器具又は容器包装の原材料であって、第十八条第三項に規定する政令で定める材質のものを販売し、又は販売の用に供するために製造し、若しくは輸入する者は、当該原材料を使用して器具又は容器包装を製造する者から、当該原材料が同条第一項の規定により定められた規格に適合しているものである旨の確認を求められた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、必要な説明をするよう努めなければならない。

図1 厚生労働省「食品衛生法等の一部を改正する法律の概要」より

なお、情報伝達や前項の製造管理などを含めた「食品用器具及び容器包装の製造等における安全性確保に関する指針(ガイドライン)」が昨年厚生労働省から発表されています。当協会の自主基準もこの指針に準拠するよう昨年末に改訂されました。さらに厚労省から、管理の要点をまとめて公開して欲しいとの要請を受け、協会自主基準を基に、技術統括委員会にて「乳等の容器包装に関する自主管理の要点」を本年3月に作成しました。現在協会ホームページに載せてありますが、今後厚生労働省のホームページにおいても公開される予定です。これは法規制化を前に、業界団体等に属さず具体的な管理方法に関する知識に乏しい小企業にも管理を周知徹底される必要があるために厚労省が取った対策であり、厚労省では軟包装衛生協議会、日本プラスチック食品容器工業会も同様の依頼をしています。

2. 食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関する技術検討会

2-1. 論点について

この検討会は新たな制度を導入するに当たっての技術的事項についての検討を行う目的で開催されています。開催要領には次の検討事項が論点としてあげられました。
論点1:ポジティブリスト制度の対象範囲及び具体的な仕組み
論点2:具体的なリスク管理の方法(ポジティブリストの作成方法、添加量・溶出量規制等)
論点3:その他
昨年9月に実施された第1回会議資料では、図2のようにそれぞれの論点について具体的に議論すべき項目があげられています。なお、論点1と論点2は「取りまとめ」において検討課題とされたものであり、論点3は「取りまとめ」にて今後の課題とされたものです。第1回会議では論点1について議論され、食品接触面で使用される合成樹脂はポジティブリストの対象となる、ポジティブリスト制度の対象材質の器具・容器包装の製造者には製造管理を制度として位置付ける、などそれぞれの項目について議論が行われ、その合意内容に基づき、その後の食品衛生法等改正についての食品衛生法改正懇談会や厚労省食品衛生分科会での審議を経て、食品衛生法が改正されました。

図2 第1回食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関する技術検討会 資料2

2-2. 論点2

6月の法改正の後これまでに実施された第2回、第3回の技術検討会では、熱可塑性合成樹脂以外の材料で器具・容器包装で使用されているものの、国によって規制の異なっている熱硬化性樹脂、コーティング剤、接着剤や色材についてもポジティブリスト制度を導入することの必要性や、制度を導入する場合の優先順位などについて議論が行われています。またポジティブリスト制度では、合成樹脂添加剤について添加量規制を行う方向ですが、溶出量規制できないかといった要望もあることから、事業者での管理の方法論についても引き続き議論されます。情報伝達に関しては、コーティング剤について容器包装製造者はその詳細は分からない、小企業にあっては現在十分な情報伝達は行われていないと思われるため今後情報伝達が義務化された場合の負担軽減が必要ではないか、などの問題点も指摘されています。

2-3. 論点3

論点2に関する議論が続いているため、今後の課題としてあげられている乳等省令で定める器具・容器包装の規格基準の統合、再生材料の取扱い、アクティブ材料、インテリジェント材料及びナノ物質の取扱いについては、まだ技術検討会の検討議題として取り上げられておりません。規格基準の統合については、今後ポジティブリスト制度の方向性がある程度固まったところで厚労省と意見交換の場を持ちたいと考えています。ナノ物質については、厚労省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室(当時)主催でナノマテリアルの安全対策に関する検討会が開催され、2009(平成21)年に発表された「ナノマテリアルの安全対策に関する検討会報告書」では、ナノマテリアルに特化した規制を導入するための科学的な事実はみとめられない、と報告されています。その後新たな知見も得られているので、改めて最新の情報によって安全性が評価された上で対応が決定されるものと考えられます。