新しい食品表示でここが変わる①一括表示欄

2015年4月1日、食品表示のこれまでの法律(JAS法、食品衛生法、健康増進法)の義務表示の部分を一つにした食品表示法が施行されました。その基本理念は第3条に「消費者の権利(安全確保、選択の機会確保、必要な情報の提供)の尊重と消費者の自立の支援を基本とする」「食品の生産の現況等を踏まえ、小規模の食品関連事業者の事業活動に及ぼす津影響等に配慮」と2つの柱が記されています。これは、消費者と事業者を車の両輪として食品の基準を定めていく、という食品表示の今後の方向性を示したものです。

この基本理念のもとに、消費者庁はより安全でわかりやすい表示を目指して、現行制度の見直しを行って食品表示基準を定めました。さらに、新法のもとで機能性表示食品制度も導入されました。本稿では4回にわたって(一括表示・栄養表示・機能性表示食品・製造所固有記号)、新しい食品表示法の変更点を中心にお届けします。

変更点は多岐にわたり、新ルールへの移行は慎重に

加工食品・食品表示法でどう変わる

新法は3つの法律を1つにしただけではなく、食品表示基準を定める際に様々な見直しが行なわれました。大きなポイントは、加工食品の栄養表示が義務化されることでしょう。ナトリウムの表記も食塩相当量に変わります。また、一括表示においてもの表示項目が細かく見直され、アレルギー表示、原材料と食品添加物の区分などのルールが変更されます。また、1年遅れの2016年4月からになりますが製造所固有記号のルールの変更も施行され、詳細は年度内に発表されます。主な変更点を示した表示事例を図に示します。

ところで、消費者庁のもとで食品表示法が施行されて半年が経ちますが、店頭の食品を見ても旧基準のままの商品ばかりで新ルールへの移行はほとんど進んでいません。加工食品の移行措置期間は5年間ありこの間の製造品は旧表示でもよいとされており、事業者の皆さんは慎重に切り替えを行っていく予定と聞いています。新ルールの変更点は多岐にわたっており、移行する際は表示の中に新基準と旧基準が混ざっていることは原則として許されません(製造所固有記号だけは1年遅れの2016年4月施行となるため例外)。今年度から来年度にかけて、地方自治体主催の食品表示研修会などが開催される予定で、環境整備が進められてから新基準への移行が進むことになるでしょう。

アレルギー表示の変更は確実に

アレルギー表示は、食品表示項目の中でも安全性に関わる重要事項です。新基準では、アレルゲン(義務表示とされる特定原材料7品目と推奨20品目の合計27品目)の数は変わりませんが、より安全にわかりやすく表示方法が見直されました。
まずは、現行制度で定められていた特定加工食品(特定原材料名を含まないがマヨネーズのように卵を含むことが容易に予測できる表記)が廃止され、その拡大表記(特定加工食品の表記を含むものでからしマヨネーズなどの表記)も廃止されます。

たとえば「乳」の場合は、これまで特定加工食品だった生クリーム、ヨーグルト、フルーツヨーグルト等は(乳成分を含む)の表示が必要になります。なお、「乳」のうち特定加工食品に整理されていた「ミルク」は「代替表記」とするので従前と同じく(乳成分を含む)は不要です。同じく代替表記でバター、バターオイル、チーズ、アイスクリームは、「乳」の言葉を含みませんが乳以外から製造されることがないため代替表記として残ります。

また、現行制度では個別表示(原料ごとに表示)と一括表示(原材料名欄の最後にアレルギー物質をまとめて記載)のどちらかでよいとされてきましたが、新法では「個別表示が原則」となり、「例外的に一括表示を可能とする」となりました。ここで添加物の場合は、物質名の直後に(〇〇由来)、用途名(物質名:〇〇由来)と表記しますが、「乳」については「乳成分由来」ではなく「乳由来」と表記します。個別表示の場合は、繰り返し出てくるアレルゲンは原則として省略可能で、これまでどおりです。一方、一括表示の場合はアレルゲンそのものが原材料に使用されている場合や代替表記で表示されているものも省略不可とされ、原材料欄の最後に全て(一部〇〇・△△を含む)と表示するよう変更されました。

以上のように確実にアレルギー患者さんに伝わるよう様々な見直しが行なわれ、患者さんと関係者にとっては見落としや誤解がなくなり、安全性が向上することになります。事業者側には、安全に関する表示なので欠落や誤表示があってはならず、より厳格な管理が求められることになります。

原材料と食品添加物の区分が明確に

旧基準では、原材料名欄に原材料が多いもの順に並び、続いて食品添加物が多いもの順に並びます。新基準では、この原材料と添加物の間に「/(スラッシュ)」や改行などで明確に区分されるようになり、どこからが食品添加物か一目でわかるようになります。新基準の検討の過程でわかりやすい表示として案が出された際に、文字の大きさについては従前のままとされ、原材料と添加物の区分について採用されることになったものです。

また、新制度の一括表示欄では製造所固有記号の見直しが大きな変更点になります。今後は同じ製品を複数工場で製造する場合に限って製造所固有記号の表示ができることになり、1つの工場で製造している場合は製造所の名前と所在地の表示が必要になります。こちらは、詳細ルールが公表された際に解説します(2016年4月掲載予定)。

新基準では他にも様々な情報が消費者に伝わるよう、変更点が加えられています。事業者の皆さんにとって容器包装の改版は必至であり、新ルールへの移行は大変な労力を要することになると想像します。新法になっても、食品表示が消費者と事業者を結ぶ大切な情報伝達手段であることは変わりません。これからも確実に情報が伝わるよう、表示の作成をお願したいと思います。

新しい食品表示でここが変わる②製造所固有記号編

前回、2016年4月より始まる製造所固有記号の新ルールについて、もうすぐ公表されるとお伝えしました。2015年12月25日、消費者庁は「『食品表示基準について』及び『食品表示基準Q&A』の一部改正」が出され、この改正に伴い、消費者庁は1月末から2月にかけて全国9か所で「製造所固有記号及び機能性表示食品の届出に関する説明会」を開催しました。その概要についてご紹介します。

今回発表された製造所固有記号の新ルールですが、旧法からの主な変更点をざっくりとまとめてみます。
1)これまで郵送による届出だったが、2016年3月までで郵送を終了して4月1日からは届出データベースを利用したオンライン手続きとなる。
2)「同一製品を2以上の製造所で製造する場合」のみ製造所固有記号が使えることが原則だが、例外として現在1工場でも別の製造所で製造予定があれば製造計画書を添付すれば製造所固有記号は使える。
3)表示方法として、新記号は「+(プラス)」をつけて旧記号と区別することになる。なお文字数は10文字以内(これまで字数に制限なし)
4)5年ごとの更新制などが新たに加わった。オンライン手続き時に登録した3名までの担当者に、更新時前にメールで連絡がくる。
5)経過措置期間は、旧製造所固有記号は2020年3月31日製造までの商品に使用可能となる。

詳細は通知「食品表示基準について」と「Q&A」に説明が分かれていて、まず通知部分では12~15p、38~39pに製造所固有記号に関するページが加筆されています。続いて「食品表示基準Q&A」の「別添 製造所固有記号」(27ページ)が加わり、「食品表示基準」本文と、通知、Q&Aとを照らし合わせながら読んで頂けると理解が進みます。
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/151224_tuchi1-hontai.pdf
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/151224_qa9-betu1.pdf

また、1月に開催された説明会では冊子が配布されています。この内容は消費者庁のウェブサイトにも掲載されており、「資料1 新たな製造所固有記号の概要」「資料2 製造所固有記号制度、機能性表示食品制度に係る届出データベースの概要」で、制度の概要が図示されていますので、こちらもご参照ください。
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/160127_siryo_1.pdf
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/160127_siryo_2.pdf


消費者庁説明会資料より、届け出の流れ

2016年4月1日の新記号の届出方法は、オンライン(製造所固有記号制度届出データベース)によって行われます。Q&Aでは「届出については、製造所固有記号制度に係る届出マニュアルをごらんください」と随所に出てきますが、届出マニュアルは2月中旬段階では公表されていません。実際の届出の際には公表されているはずですので、このマニュアルもご参照ください。届出は、初回に届出者の基本情報を入力し、消費者庁がその内容を確認した後、ログインID及び仮パスワードが発行されます。そのログインIDにより、届出データベースにログインし、製造所固有記号の届出を行うことになります。製造所ごとに製造所固有記号の届出を行い、届出内容が確認された後に、製造所固有記号が使用できることになります。また同時に消費者庁のウェブサイトで製造所の情報が開示され、一般消費者からも検索可能となります。

新記号は原則として、「同一製品を2以上の製造所で製造している場合」のみ製造所固有記号が使えるとしており、ここでいう「同一製品」とは、同一の規格(原材料や添加物の配合、内容量等が同一)で、同一の包材(デザイン部分、表示部分が同一)のことである。また、「2以上の製造所」とは、それぞれが食品の衛生状態を最終的に変化させる場所であり、製造所固有記号の使用によって包材が共有化される要件を満たすこととされ、要件は限定されている。

また、例外として認められるのは次の3点で、「届出時点で1つの工場で製造していても、他工場で製造が計画されている場合は、製造計画者を届出ればよい」「小分け作業などの加工所だが、従来の食品衛生法で製造所固有記号が使用できたところは引き続き使用OK」「他法令の規定で情報管理が厳格に行われているところ」です。3点めの他法令とは、酒税法関連のこととなる。

新制度は、商品ごとに製造所固有記号を与える制度ではない。このため、最初から同一製品を2以上の工場で製造する場合は製造計画書の類は不要です。最初に1工場でスタートして製造所固有記号を使おうと思えば、次回の更新時までに別の製造所で製造予定があれば、その商品ごとに製造計画書を提出することになります。

経過措置期間は、2020年3月31日までに製造される一般加工食品では旧記号の使用も可能としています。ただし、2016年4月以降に製造所固有記号を届け出る場合は、新記号による届出となります。また、一括表示と栄養表示が新しい食品表示基準であっても、製造所固有記号だけが旧基準でもよいとする例外規定は残されています。

製造所固有記号の検索

消費者からみると、販売者の名称の後にたとえば「+AaBb」などと表示されている場合には、新記号なので消費者庁のウェブサイトにアクセスすれば製造所を知ることができます。入力フォームに記号を入力して、販売者と製造者の情報を絞り込んでいくと、製造所等の所在地及び名称が出てくる仕組みになっています。

本制度は約2年前に起きたアクリフーズの冷凍食品農薬混入問題を受けて、消費者庁が新基準の見直しを開始したものです。本来ならば新基準の施行の2015年4月から開始するはずだったものが、データベースの構築に1年をかけたため1年遅れの施行となりました。新記号は+で始まることになるため製造ラインにおいて印字設定ミスなどが起こらないよう、現場での管理も求められることになります。移行期間は4年間ありますので、十分に準備を進めて間違いのないように移行をお願いしたいと思います。

新しい食品表示でここが変わる③栄養成分表示編

食品表示法の最大の変更ポイントは、加工食品の栄養成分表示の義務化です。
義務化となった背景には、日本の健康栄養政策の拡充とともに、国際的な整合性の観点もありました。日本の栄養成分表示制度は、国際的な観点からみると遅れをとっており、米国では1994年に栄養成分表示が義務化され、2000年以降は南米諸国や中国、インド、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、欧州連合(EU)等多くの国が義務化を進めてきました。消費者庁が発足した2009年より、健康保持増進を図る観点から栄養表示の重要性について検討が行なわれ、栄養成分表示検討会、食品表示一元化検討会の議論を経て、加工食品に原則として栄養表示を義務付ける方針が定まりました。

新基準における義務表示と表示様式

2015年4月より施行された食品表示法の食品表示基準では、栄養成分「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」「ナトリウム(食塩相当量に換算したもの)」の量及び「熱量」の基本5項目を義務表示として、一般用加工食品及び一般用添加物に表示することが義務付けられました。
この中で、ナトリウムを食塩相当量に代えて表示をすることが大きな変更点なのですが、これは食塩以外のナトリウム塩も食塩相当量として表記することになり、科学的には正しいとは言えません。欧米ではナトリウム表示がほとんどで、国際規格であるコーデックスのガイドラインでも、「食塩」表示は注釈で扱われており本文では「ナトリウム」となっています。それでも新法で「食塩相当量」となったのは、日本人の食塩摂取のリスクが各国に比べて高いことにあります。なお、また、ナトリウム塩が添加されていない場合は、消費者の誤解を生じさせないよう、ナトリウム〇mg(食塩〇g)と表示することもできます。
現状では、食塩摂取量の目安(日本人の食事摂取基準における目標量:18才以上男性1日8.0g未満、18才以上女性1日7.0g未満)よりも摂取量はかなり多く、新表示の食塩相当量を活用することが期待されています。
また、推奨表示として、一般用加工食品を販売する際には「飽和脂肪酸」「食物繊維」の2項目が定められ、積極的に表示をするよう勧められています。なお、検討の過程で消費者の関心の高い「トランス脂肪酸」も推奨表示に加えるかどうか、かなりの時間をかけて検討されました。しかし、日本人の大多数のトランス脂肪酸摂取量はWHOの目標(総エネルギー摂取量の1%未満)を下回っているのが現状であり、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられていることや、日本食品標準成分表にも掲載されておらずデータも少ない等の理由から、任意表示として整理されました。
新基準による栄養成分表示は、下記の別記様式に基づいて表示されます。


様式1(義務表示のみの場合)
栄養成分表示100gあたり

 エネルギーkcal
 タンパク質g
 脂質g
 炭水化物g
 食塩相当量g

様式2(任意表示を含む場合)

栄養成分表示をめぐる混乱

栄養成分表示の表示方法をめぐっては、現状で様々な混乱があるようです。
まず1つ目、栄養成分の分析を一度しておけば、「推定値」の表示が不要といった誤解があるようです。新基準では分析値が得られても、原材料のばらつきがあって表示値の±20%を超えてしまえば「推定値」「この表示値は、目安です」などの併記が必要です。最近、見かけるソーセージの商品には、「サンプル品分析による推定値」という表示もあります。これは分析値が得られても、製品によって±20%以内におさまらないことを意味します。
2つ目、栄養成分表示をする際に、シロップ漬けや塩蔵品等の場合が悩ましいということです。施行通知では「当該食品の販売される状態における可食部分の100gまたは1食分の栄養成分量」となっています。でも、消費者が知りたいのは食べる状態の栄養成分表示です。しかし、施行通知では「調理により栄養成分の量が変化するもの(塩抜きする塩蔵品)は、販売時の栄養成分の量に加えて標準的な調理方法と調理後の栄養成分の量を併記することが望ましい。」とされています。つまり、塩抜き後の表示をしたければ、塩抜き前の栄養成分表示も必要となり、2つの枠を表示しなければなりません。
3つ目、最大の誤解は、栄養表示の例外規定の中小事業者に関するものでしょう。表示基準では「消費税法第9条第1項に規おいて消費税を納める義務が免除される事業者が販売するもの」とあり、ここでの事業者は、「課税期間に係る基準期間における課税売上高が 1000 万円以下の事業者(当分の間は、課税売上高が 1000 万円以下の事業者又は中小企業基本 法第二条第五項に規定する小規模企業者(おおむね常時使用する従業員の数が 20 人(商業又は サービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人)以下の事業者))」と示されています。
従業員が20人以下の事業者が表示を免除されるということですが、これは上記の「販売するもの」にかかります。つまり、和菓子屋さんが従業員20人以下でも、それを販売するお店が従業員20人を超えていたら表示を省略できません。ある地方自治体の行政栄養士は、「小さなお店でも、近くのスーパーなどに卸して販売しているケースが多いので、栄養成分表示はほとんど例外なく必要となると指導している」と言います。この点に注意が必要です。
4つ目、栄養成分表示と一括表示欄は、あわせて新表示に変更しなくてはならない、ということです。施行通知「食品表示基準について」の35Pに「1つの食品表示の中で、新旧ルールの混在は認めない」という原則が示されています。しかし最近、地方の名産品のお菓子で、栄養成分表示は食塩相当量が表示される新表示で「推定値」まで併記してあるのに、一括表示欄は原材料と食品添加物の区分が無いなど、旧表示のままのものをいくつか見かけました。行政栄養士に聞くと「栄養表示が義務化されるという情報だけがひとり歩きしている場合がある」ということでした。

新基準によって正確な栄養成分表示をしようと、多くの事業者は苦労されていることと思います。新基準の仕組みをよく理解して、一括表示の新表示や製造所固有記号の新データベースとのタイミングをはかりながら、慎重に切り替えて頂きたいと思います。

新しい食品表示でここが変わる
 ④これからも変わり続ける食品表示

食品表示法ができて、①一括表示欄はアレルギー表示、製造所固有記号などが細かく見直されたこと②栄養成分表示が義務化されナトリウムが食塩相当量になったこと③保健機能食品に機能性表示食品が加わったことなど、3回にわたってお伝えしてきました。

新法は変更点が多く、さらに移行措置期間が5年間と長いこともあり、1年過ぎても新基準への移行はほとんど進んでいません。現在、店頭をみると数%といったところでしょうか。新商品でも旧表示だったりするとちょっとがっかりしますが、その一方で、あわてて新表示にして間違えた表示を見つけることもあり(例:栄養成分表示は新表示なのに一括表示は旧表示だったり、炭水化物の内訳表示の間違いなど…)、新法の普及啓発には時間がかかることもわかります。

それでは消費者は、新基準をどう受け止めているのでしょうか。消費生活センターなどでお話をすると、「新表示は情報が盛りだくさんで読み解くには知識が必要」「製造所の情報がアクセスしやすくなるのでよい」「アレルギー表示が充実した」など、様々な意見が聞かれます。栄養成分表示については「食塩相当量になったので活用したい」と好評で、現在は推奨表示である「食物繊維」「飽和脂肪酸」についてもニーズは高く、食物繊維とセットで表示される「糖質」を知りたいという声も寄せられます。新法で栄養成分表示が義務化されたといっても、国際的にみると日本は表示項目が少なく遅れています。今後さらに充実させていくためには、事業者への環境整備と消費者への教育が必須となるでしょう。

こうして食品表示法が施行されましたが、これでゴールということはありません。消費者庁は食品表示法が施行された後の検討課題として、加工食品の原料原産地、遺伝子組換え食品、添加物の表示ルールを見直していくとしており、制度の変更が予定されています。また、最近はインターネット販売の食品が増えており、適切な表示のあり方も検討されています。この先も時代に応じて、食品表示の見直しが続けられます。

TPP対策で原料原産地表示が見直される

見直しが検討されている食品表示制度について

現在、見直しの中で一番注目されているのが、2016年1月から開催されている「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会(農林水産省・消費者庁共催)」です。2015年秋に大筋合意されたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の関連政策として検討が開始されました。

政府が6月2日に閣議決定した「日本再興戦略2016(骨太の方針)」では、「農林漁業者が、自らのブランド力を生かし、国内・国外の競合産地と適正に競争できるよう、また、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会の確保に資するよう、原料原産地表示について、全ての加工食品への導入に向け、実行可能な方策について検討を進める」と明記されました。

「全ての加工食品」となると、食品事業者にとってはかなりの負担を伴います。果汁、小麦粉、植物油など多くの加工食品は、一定の品質を消費者に届けるために、季節に応じてさまざまな国の原材料を調達しています。複数の国の原材料をブレンドして使うこともあり、原産国はしょっちゅう変わります。なかみに応じてその都度、容器包装の表示を印刷するのは、技術的にも困難で、コストアップにもつながります。国名を書くのではなく「輸入」という大括りの表示も検討されていますが、それでは特定の国名を知りたい消費者にとっては、中途半端な情報といえるでしょう。

国際的にみると、原料原産地表示を義務化している国は韓国だけ。この7月より、オーストラリアでも義務化が始まりましたが一部です。国際的にみるとコーデックス委員会でも規格を定めておらず、むしろ貿易障壁として問題になることもあります。

それでもTPP対策として、生産者団体からは原料原産地表示を求める声が強く出されています。韓国の表示対象品目を見ると、基本的に上位3位までの原材料(配合比率が1種類または2種類で98%以上の場合はその原料)や、商品名に強調表示をした原料などです。もし、上位3位までとすると、たとえば乳飲料や発酵乳などの原材料名欄に乳製品、生乳、砂糖、乳たんぱく質にそれぞれ「国名」か国名が難しい場合は「輸入」と書くことになってしまい、個人的には実行可能な方策とは思えません。

消費者にとって「原産地表示」は関心の高い項目です。選択のための情報がまた1つ、増えることになるのは単純に考えるとよいことのように見えますが、実際には原産国の表示が難しい商品もあること、中間加工品の問題、国際ルールに則してどうかなど、まずは実態を知ることがたいせつだと考えています。「どこまで」「どんな」表示を求めたらいいのか、私たち消費者団体も全国消費者団体連絡会などで勉強会を始めています。

機能性表示食品制度も見直される

食品表示法施行とともに機能性表示食品制度がスタートして、健康食品の市場が変わりつつあります。1年で300近い商品が誕生していますが、様々な問題も出てきています。制度がスタートしたときから、施行後2年で実態を踏まえて必要な措置が講じられることが約束されており、今後も様々な観点から検証されていくことになるでしょう。

一方、健康食品を取り扱う事業者からは、機能性表示食品の機能性関与成分として、ビタミン、ミネラルを認めること、さらに機能性関与成分が明らかでないものも認めてほしいという規制緩和の要望が出されています。現在、消費者庁で「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取扱い等に関する検討会」が開催されていますが、消費者、学識者からは、さらなる緩和に対して厳しい意見が出されているところです。

今後は、高齢化社会が進み病者用食品のニーズが高まることから、消費者庁において特別用途食品の見直しも行われ、農林水産省では介護食品のJAS規格も検討されます。消費者のニーズが多様化し、様々な食品が開発される中で、なかみの情報をきちんと消費者に届けられているか、これから健康食品分野でも表示の見直しが続きます。

食品表示は消費者の自立を支援する

食品表示法の基本理念を振り返ると「消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援を基本とする」とともに、「小規模の食品関連事業者の事業活動に及ぼす影響等に配慮」という2つが書き込まれていることがわかります。この基本理念をベースに、これからも食品表示の見直しは続けられていくことになるでしょう。

この中で、「消費者の自立の支援」を明記していることが、実はたいせつだと私は思っています。期限表示や保存方法、使用方法、アレルギー表示などを確認してその食品を適切に取り扱うこと、そして栄養成分表示を食生活の中で活かすことは、私たちが自身の身を守る自立の支援につながることだと考えるからです。また、表示・広告の内容が偏ったり、消費者を誤認させるようなものであったりしてはならず、消費者自身も任意表示のキャッチコピーなどに騙されないようリテラシーを高めることも自立につながることでしょう。そのための消費者教育も重要性を増していると思います。

食品表示は、事業者が消費者にその食品についての情報を伝達するための大切な手段です。事業者の皆様には間違いないよう確実な情報伝達をお願いするとともに、消費者の側も伝達された情報を読み解く知識や、科学的根拠に基づく考え方を身につけることができるよう、これからも学んでいきたいと思います。

ご好評を頂いた「新しい食品表示でここが変わる」は本号が最終回となります。森田様ありがとうございました。
新たに連載を予定しておりますので、御期待下さい。(事務局)

【森田 満樹】 消費生活コンサルタント、東京海洋大学非常勤講師 【森田 満樹】   消費生活コンサルタント、東京海洋大学非常勤講師。
昭和60年3月 九州大学農学部食糧化学工学科卒業。
食品会社研究所、民間研究機関勤務等を経て、科学的根拠に基づく情報発信を行う消費者団体「一般社団法人FOOD COMMUNICATION COMPASS」を運営。
食品表示関連委員の経験は、JAS調査会(農林物資規格調査会)部会委員、JAS調査会総会委員、外食における原産地等の表示に関する検討会委員、消費者庁・食品表示一元化検討会委員、消費者庁・食品の新たな機能性表示検討会委員など。