「包装商品化で考えなくてはいけないこと」

日本乳容器・機器協会第7回オープンセミナーは11月30日(水)に東京コンファレンスセンターにおいて開催され100名を超える参加者がありました。上田会長理事のご挨拶の後、厚生労働省 生活衛生・食品安全部道野監視安全課長からご挨拶を頂きました。道野課長は最近の食品安全衛生のトピックに続いて、当協会会員の関心事でもある食品業界へのHACCPの導入に関連して「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会中間とりまとめ」について貴重な情報提供を頂きました。本稿では最初の講演者である佐々木敬卓 HIRO・包装設計研究所所長 東京聖栄大学健康栄養学部食品学科特任教授の「包装商品化で考えなくてはいけないこと」の講演抄録を掲載致します。なお本稿は当日の録音をもとに事務局が書き起こしたものであり、文責は事務局にあることをお断りしておきます。(TF)

初めに

 「包装商品化で考えなくてはいけないこと」を1時間で講演するのはかなり挑戦的な課題です。例えば6時間あったとしても十分ではないように感じております。今日は包装商品化で考えなくてはいけないこととして以下(今日の話題)の4点を取り上げてご説明を進めていこうと考えておりますが、ある部分で「新幹線のような速度で」講演させて頂くことになってしまうかも知れません。ご容赦頂きたいと思います。

Ⅰ 基本的な必要要件

Ⅰ-1 儲けに繋げる力

 包装商品化でまず必要なことは今日のテーマにもなっている「安全、衛生、安心」ということにつきると思われますが、これを達成するための基本は「いつも考えること」ではないかと私は思っています。つまり突然考え出してもよい包装商品化はできませんよということです。これに加えて包装商品化も当然企業の儲けに繋げる力が要求されます。これらの基本的な必要要件としては以下(Ⅰ-1)の7項目にまとめることが出来ると考えます。ここ約20年間、日本の企業はコストダウン化が最重要業務であると考え推進されて来ましたが、私はこれが正しい方向性であったかというと疑問があります。やはり市場に新技術や新商品をお届することで企業が収益を向上させるということが最も必要なのではないでしょうか。そのためには消費者の五感に対応することができる新技術・新商品の開発に毎日自ら苦労して取組み安全・衛生・安心と企業の儲けを考えると、数値だけに目を奪われることがないようにしなくてはいけないと思うわけです。また私見ですが「リスクをとる」ことが求められる開発のトップと「リスクを最小限にする」ことが求められる品質のトップは同一の方ではないほうがよいと思います。また新技術・新商品の開発が円滑に進むように企業風土を整えることは経営層の力量ですが、経営層に向けてどのような提案ができるかというのが実務に取り組んでいる方々の大切仕事でもあるということになります。

Ⅰ-2 特に必要な7要件

 まず(Ⅰ-2)の7要件は、①安全・衛生・安心です。これは包装商品化の上でまず考えなくてはならないことです。②資源の少ない国、日本において包装と内容物(製品)の両面における原材料から物流を経て消費者の手に届くまでの省資源化や、③環境への影響も十分に考慮されなくてはなりません。一方でとても重要な要件として④ユニバーサルデザインに代表される使いやすさ・分かりやすさ・食べ易さ・おいしさなどが挙げられます。この部分に対する充分な検討は企業の収益にも繋がるものと言えます。⑤生産性やコストの観点も欠くことのできない要件であり、消費者にとって重要な⑥感覚や官能(五感)も忘れてはならないものです。関連する⑦法律や規格そして約束によって規定されたことも遵守しなくてはいけません。企業はこれら7つのすべての項目について科学的に検討・評価しそれを発信する必要があると思います。

Ⅱ 包装商品をねらうもの

Ⅱ-1 ねらっている14の目

こちらに私たちの包装商品をねらう14の目(Ⅱ-A)を挙げてみました。

 極端な言い方になりますが購入した消費者の命を奪うような事故、そしてそのことによって会社の法人としての命すら奪うというリスクの因子がこちらに列挙されています。01―07の赤枠の部分については後程もう少し詳しくご説明したいと思いますが、課題の発生はこれら14の項目が単独で進行するケースはあまりなく、複合的な組み合わせによる場合が殆どです。特に14番目の人・人間は殆どの課題に関わっていると言えます。8番目の内容物から14番目の人・人間までを含めて包装商品の製造・流通・販売プロセスを通してリスク因子となりえることはご理解頂けると思います。

Ⅱ-2 微生物について

 まず微生物の小ささを(B-1)で確認して頂きたいと思います。

 微生物にも色々な大きさがありますが、通常包装設計する場合は1μmを目安にしています。つまり小さいためこの図のなかでは表現出来ない大きさということになります。ちなみに図の中の黒点の30μmは、日本人の髪の毛の平均的な直径を示しています。そしてこの小ささが容器包装にとって厄介な問題であるということです。

 食品原料の存在する温度帯(B-2)は10℃から50℃ですが、この温度帯は科学反応が容易に進行し、微生物も活動しやすい温度帯にもなる訳です。言い換えれば食品原料が生きている(栽培・飼育など)時はこの温度帯ではまったく劣化(腐敗など)しませんが、加工処理が開始する瞬間から科学反応(劣化)の進行は容易となり微生物の活動も活発になるということです。近年のガス制御包装のなかで真空包装を利用すれば微生物の問題は起きないという誤解をしている方がまだいらっしゃいますが、包装設計での微生物の3種の分類の内、酸素の存在が不可欠である偏性好気性菌にしかあてはまらないのです。

Ⅱ―3 異物について

 異物の混入を防ぐことも包装設計の上で重要です。

 この(C-1)に示したのは全て異物ですが、特に髪の毛は異物ということだけではではなく、微生物の観点からもリスクの高いものです。最近ではペットの愛好家も増えておりますので人間だけではなくペットの毛も異物混入防止の上で充分に配慮する必要があります。

 (C-2)は工場見学を例にとって異物混入のリスクを示したものですが、例えば製造現場に入場する前に作業衣はエアーシャワーなどで充分な異物対策をとったとしても、製造現場と遮断されている資材や製品倉庫に直接ショートカットしてご案内してしまえば結局リスクの高さは入場前の異物対策をとらない時と同じになってしまいます。さらに私は製造現場で働く方々にはロッカーは3つ必要だとよく申し上げます。つまり1)私服用、2)製造、加工、充填、包装現場作業衣用、3つめ3)は、その企業内の2)以外で着る作業衣用ロッカーです。トイレに行くときは、3)の作業衣を使う必要があると言う事にも繋がります。

Ⅱ-4 温度について

 温度制御も非常に大切です。(D-1)は温度帯を縦軸にとって製品や容器包装の化学・生物・物理的側面の影響をまとめたものです。つまり微生物を制御することを目的とした110℃から150℃のレトルト域から0℃から―40℃の冷凍域までの幅広いプロセス別及び製品別の温度帯を管理制御し、かつ微生物が活動しやすい先程説明の(B-2)10℃から50℃の温度帯や、製品毎によって異なる食べ頃の温度域も充分考慮して、温度管理を行っていかなくてはならないわけです。


 一方(D-2)のように充填方法・温度とその後の工程による温度の変化の関係で容器の減圧変形や膨張のリスクがあります。また製造現場と隣接した部屋の出入り口の解放によって両部屋の温度・湿度差によっていわゆる分圧差が発生するリスクもあります。この分圧差によって起こる化学・生物・物理的な影響をどのように回避するかも重要です。また(D-3)のように食品(内容物)自体は水分の多い状態で製造・加工を経由する場合が多いので加熱処理が比較的容易です。しかし容器は成形された後に殺菌することは、水分が少ない、熱伝導率が低い、変形など困難な点が多いので包装材料が容器になる前の原料管理と特に容器となった時点(成型・製膜など)以降にどのような方法(製造環境の高度化など)で劣化防止に対応するかが重要になってきます。

Ⅱ-5 水分について

 水分による劣化も当然考慮しなくてはなりません。製品にとって水分は食べ物の溶ける順番等五感の関係で重要なものですが(E-1)のように吸湿によって軟化や微生物が増殖するなど製品の劣化原因になります。一般的に製品内の水分含有率が3%以下であれば微生物の増殖を抑制することが可能と言われていますが、全ての食品を一律低水分化という訳にはいかないのが五感を満足させる様々な食品といえます。また消費・賞味期限までその水分値を維持・確保するのは大切な包装技術でもあります。

Ⅱ-6 ガス制御による劣化の抑制

 先程申し上げたようにガス制御による劣化の抑制は(F-1)に示した4項目に関してのみ限定的に有効で万能ではありません。それ以外の劣化の抑制においては原材料、包装材料、温度等の管理が必要になってきます。

Ⅱ-7 光もねらっている

 食品の劣化に影響を及ぼす光は(G-1)のように波長が200nm(ナノメートル)弱から400nm未満の紫外線と400nmから500nmの可視光線とされていますが、食品によって異なりますので確認が必要です。またLED照明と製品の劣化の関係については未だ明らかにされておらず現在進行中の研究も含めて今後の解明が待たれています。

Ⅱ-8 原料は全てを決める

 「原料がすべてを決める」というのが私の持論です。原料とは食品の原料だけではなく(H-1)のように容器・包装やこれらに関する製造・加工機器を含んだ概念です。包装商品化においては(H-2)のように原料から廃棄リサイクルまでの全てのプロセスが無論重要ですが、出発点である原料に問題があればすべてのプロセスに影響を与えてしまいます。


Ⅲ どうしても「あまく」なるもの

 包装商品の劣化は(Ⅲ-1)のように目で見て判断でできるものが少なく「予知、予測、確認、表示」による科学的評価が重要であり原料からの視点も忘れてはいけません。

 このためには大切なのは関わっている人たちの心が大切になってきます。関わっている多く方々は「普通のひと」であり、色々な勘違いや間違いで判断が「あまく」なりがちだということを意識しなくてはなりません。(Ⅲ-2)大切なのは包装商品化の基盤や土台となる決めごとや約束を守ることや総合(経営)品質の維持・改善等に継続的に取組んで、見える数字だけを優先させないことです。(Ⅲ-3)


Ⅳ 今後注目されることがら

 包装商品について今後注目されることを16項目(Ⅳ-1)列挙してみましたのでご参照頂きたいと思います。最後に私はやはり人に注目すべきと思います。(Ⅳ-2)そのための人材育成はお金がかかり即効性がありませんが経営陣に前向きに判断をして頂ければ、じわじわと効いて会社の総合力が向上するものと思います。


最後に

 食品と包装は対であり、包装なくして食品は基本的にありえません。包装の重要性を社会的により認識頂いて包装人の社会的地位を向上させるためには、包装に関わっている方々からの情報発信が益々重要になってくると考えております。本日はご清聴ありがとうございました。

作山 巧
佐々木 敬卓    SASAKI HIROTAKA
HIRO・包装設計研究所所長、
東京聖栄大学 健康栄養学部 食品学科 特任教授(食品包装)

「Food Safety and Quality Management at Nestlé」

第7回オープンセミナー後半のテーマはネスレ日本株式会社生産本部上保品質保証部長から”Food Safety and Quality Management at Nestlé”のテーマでご講演頂きました。この講演録は事前に了承頂いた録音を基に事務局が書き起こしたもので文責は事務局にあります。また上保部長のご説明にもありましたように、ネスレグループの当該領域の活動のグローバル性から使用したスライドは全て英文となっており、当稿においても挿入されるスライドは英文となっております。(TF)

 ご紹介頂きましたネスレ日本の上保でございます。最初にお断りしなくてはいけないのが食品安全や品質マネジメントに関しましては、ネスレは日本においてもグローバルな基準に基づいて対応しており、そのため説明に使用させて頂くマテリアルが英文となっております。よろしくご了承の程お願い申し上げます。本日のご説明ですが、まずネスレグループの概要についてご説明し、品質方針、品質マネジメントシステム、これに関するグローバルな組織、ネットワークとその活動、最後に現在取り組んでいる課題についてご説明させて頂きます。

■ネスレグループの概要

 本年(2016年)はスイス本社の創立150周年に当たり、世界の各地域で様々な記念行事が開催されています。ネスレグループは世界を地理的に3地域に分けてビジネスを展開しており、まず売上が一番多いAMS(南北アメリカ、約4兆円)、次に売上の多いEMENA(ヨーロッパ、中近東、北アフリカ、約3兆円)、そして最後に日本が属しておりますAOA(アジア、オセアニア、中南アフリカ、約2兆円)となっております。全世界の従業員数が335,000人、世界189カ国で製品を販売しております。
 これを製品カテゴリーやブランド別に見たものが次のスライドになりますが、日本でもお届けしておりますカテゴリーを中心にご説明しますと、ネスカフェに代表されます飲料製品が約2兆円、マギーのような調理用製品が約1兆円、ピュリナという別会社で担当させて頂いておりますがペット用製品が約1兆円、日本ではキットカットに代表されるチョコレートを含む菓子製品が約1兆円弱、日本では輸入で対応させて頂いているペリエやヴィッテルの水製品が約1兆円弱ということになります。


 AOAにおける国別、製品カテゴリー別の生産状況に触れておきたいと思います。ネスレグループ全体では2014年で稼働中の工場は450程ですが、数年前は500程ありましたので、工場の統合化を進めております。AOA全体では161、日本では3工場が稼働中です。AOAではやはり30工場が稼働中の中国の存在が大きくなっております。細かくて見にくいかと思いますがAOAに属する各国の市場に対する製品カテゴリー別の対応(国内生産あるいは輸入等の状況)がこのスライドでご覧になれます。

■ネスレグループの品質方針

 1867年にアンリ・ネスレがビジネスを開始致しました時、その最初の製品は幼児向けシリアルだったことから、その製品の特性上、当初から「品質はネスレの基盤」と位置づけられてきました。このスライドで説明されているのはネスレの品質に対する取組みの変遷であり、品質管理から品質保証、品質マネジメント、そして現在は品質リーダーシップと品質カルチャーへの取組み、という進化の経緯を示しています。

 ネスレグループの品質方針を示したものがこのスライドです。お客様や消費者を中心にその嗜好や品質の一貫性を重視しながら、食品安全と全面的なコンプライアンスを達成し、さらにゼロディフェクトやノ―ウェイストによって不必要な品質コストの削減を図りますが、これらは全従業員のコミットメントによってのみ達成可能である、ということを示しております。


こちらのスライドは一般的な品質ピラミッドですが、ネスレにおきましてはピラミッドの最底部に消費者からのクレームを置いており、その上部に製品への異物混入を置き、異物混入防止を非常に重要視しています。さらにその上の「品質ロスが一定の金額を超えるスイス本社へ報告する品質事故」が増えるようになると、品質に関連した重大事故につながる可能性が高くなるとしております。これを全従業員も対象に含めて分かり易く示したのが左側のピラミッドで、ベースに品質に関する日々の習慣や行動があり、外部へは出ないが内部で発見される「ニアミス」と呼ばれる品質問題が、お客様の信頼を失う重大な事故につながるリスクを示しています。

■ネスレグループの品質マネジメントシステム

 こちらはネスレグループにおける品質マネジメントシステムを説明したスライドです。ネスレは「農場から消費者まで」のバリューチェーンを通して、食品安全要求事項、法的要求事項、顧客要求事項、お取引先要求事項、そしてネスレ独自の要求事項の達成を図っていきますが、そのために基本的事項としてGMP・GHP、食品安全としてHACCP、品質システムとしてISOを各場面に適用しつつ、システムだけではカバーできない「意識」の部分も包含した品質カルチャーの達成を目指しています。
 このスライドの品質の重要な原理原則の部分をまずご説明しておきます。まず先程来ご説明している品質カルチャー、国際基準の遵守、継続的改善、NCEとGLOBEの活用が挙げられています。NCEはネスレ版のTPM、GLOBEはSAPを基盤としたネスレグループ全体の基幹システムで、品質情報を含むネットワークシステムとして活用しております。


 このスライドでご覧頂けるようにネスレ品質マネジメントはまず一般基準として品質方針があり、その上に一般品質方針基準とよばれる全世界・全製品共通の基準をおき、さらに製品カテゴリー特有の基準としてブランド別の基準があります。そして最後に各地域や工場別基準がおかれているのですが、当然のことですが例えば地域別基準は一般品質方針基準と齟齬があっていけないわけです。
 ネスレ品質マネジメントシステムには通常のマネジメントシステムのPDCAにあたるマネジメントサイクルと呼ばれるものがあり継続的な改善も求められています。

 またネスレ品質マネジメントシステムはプロセスベースのマネジメントシステムであり、どのバリューチェーンのどんな部分であっても「メジャー」と呼ばれる指標により運営上のレビューを行い、この結果を改善に結びつけることが求められます。先程GLOBEについて触れましたがこのスライドがその活用方法を示しております。

 まずグローバルで食品安全に関する要求事項、法的要求事項、消費者要求事項、ネスレ独自の要求事項を取り纏めモデルHACCPとします。これからモデルQMS(品質モニタリングスキーム)を作成し、地域において必要と判断されるローカル化を行った上でGLOBEに載せ、原材料から最終製品まで各プロセスのデータを入力します。この際、全てのプロセスで規格に合った適切なデータが入力された場合を「ファーストタイムライト」と呼んでおり、例えばどこかのプロセスで何らかの不具合があったときは、最終的に製造された製品が規格を満たし出荷可能だったとしても「ノンファーストタイムライト」となります。このファーストタイムライトについては当然ながら定められた基準の達成が求められ、ノンファーストタイムライトの場合は再発防止のための対策が求められます。過去ネスレにおいても同一製品であっても品質基準が地域ごと工場ごとに異なっていたこともありましたが、この仕組みの導入により標準化された品質基準に基づく工場間のデータを比較することが可能となり、またある工場や地域での品質向上の取組をグローバルに「ヨコ展開」させることもできるようになりました。

■グローバルな組織、ネットワーク及び活動

 ネスレのグローバルな品質に関する組織について触れておきます。グローバル本社の品質保証部は全社的な品質保証戦略を担当するスタッフ部門とネスレ品質保証センター(NQAC)から構成されていますが、これに加えてR&D、SBU(戦略的ビジネスユニット)、各地域、別会社の統括組織にも品質保証の責任者がおかれています。私は日本というマーケットの品質保証の責任者としてAOA地域の品質担当責任者に報告する立場にあります。

 ネスレには世界中約40のR&Dセンターに約5200名の社員がおりますが、このR&Dセンターそれぞれにも品質の専門家チームがあり、それぞれの製品カテゴリーの品質基準や管理方法の設定を担当しています。

 またR&Dの品質専門家はグローバルなネスレ品質安全ネットワークの一員として「早期警報ネットワーク」と「微生物安全ネットワーク」を構成しており、早期に入手した原材料の品質事故情報や微生物学上の知見を世界中の品質担当部署に提供しています。


 このスライドはその一例で、TICと呼ばれるR&Dの専門家が作成した原材料の化学物質による汚染リスクの一覧表です。これを使用して各工場の品質保証担当者は原材料のモニタリング頻度を判断しております。
 先程触れたNQACと呼ばれる品質保証センターですが全世界に25か所あり、主な業務として各国から送付される年間300万件を超えるサンプルの分析を900人のスタッフで行っております。

 これに加えてNQACには地域を担当する品質保証・食品安全の専門家チームがおり、現場の要望に応じて専門知識と経験に基づくサポートを行っています。彼らは、CIPや衛生問題などの分野毎にグローバルな専門家ネットワークを形成して情報交換を行っており、世界中で常に最新の知見に基づいたサポートができるような体制を構築しています。

 ネスレはまた社内や関係する社外分析機関に対する技能テストを外部機関の協力のもと実施しています。

 ネスレには全体で8000人以上の品質担当者がおりますが、これは335,000人の全従業員2.5%に過ぎません。つまり品質確保は全従業員の仕事、責任であり、品質担当者が果たすべき役割は、製品の安全・コンプライアンス・消費者品質の関する監視人であり、同時に製造部門におけるゼロディフェクトとゼロウエイスト達成に向けたチャレンジャー、とされています。

■課題

 現在、我々がビジネスを行っている世界は大きく変化しており、我々は「新たな困難」に直面していることを認めなくてはなりません。環境面では汚染や気候変動の進展、さらに消費者のライフスタイル、食習慣等変化、グローバル化やデジタル化も進んでいます。

 こういったなかで食品安全と品質にも新たな事態が起こっています。サプライチェーン、規制、科学の進展による問題の複雑化が進む一方で、ちょっとしたミスでもその社会的影響は甚大なものになりやすくなっております。食品安全と品質に関する社会や政治からの関心は益々高まり、分析技術も日々進歩しています。

 これらにより食品安全マネジメントは全てのサプライチェーン、言い換えれば農業生産から消費者までにその範囲を広げなくてはならなくなっているのです。

 全世界でネスレに対する原材料供給者は約7,300、包装材料供給者は約3,700、その製造場所は約20,000箇所です。私共では独自の基準で供給者を選択し、またお取引頂くようになってからも監査や分析などで品質確認をさせて頂いておりますが、最近はそれに加えて納入業者の方々にリーフレット等でネスレの品質基準を具体的にお伝えして、協力をお願いするということも始めています。

 原材料要求事項の具体的な例として微生物検査においてはサンプルや分析方法を具体的な菌毎に列挙しておりますし、衛生指標の規格も明確にしています。なお、衛生指標菌としてAMC(SPC)、Ebそして(ウェットやフローズンの環境では)リステリアを使用しており、大腸菌群を採用しておりませんが、これはネスレの知見では衛生指標菌として大腸菌群よりはAMCやEbの方が適切と評価しているからです。


 原材料の品質検査のサンプリング場所や個数についても、該当原材料や該当製品カテゴリーのリスクに対応して変えており、例えば同じ砂糖でも育児用粉乳用とチョコレート等の菓子用では原材料規格の検査項目やサンプル数が異なっております。

 分析方法については基本的にはISOに則ったものですが、検証された簡便法については採用を認めており、また供給者にも自社工場でも行っております環境モニタリングの実施をお願いしています。

 次に食品偽装についてネスレの考え方を述べたいと思います。ネスレの品質マネジメントにおいては食品安全(故意でない食品安全に関する危険)食品防御(故意に食品安全が侵される危険)と並んで食品偽装を「経済的な動機で食品安全が侵される危険」と定義しています。具体的にはよくご存知の2000年メラミン入り育児粉乳や2007年の米国の中国産ペットフードの小麦グルテンの問題等が該当します。

 食品偽装防御のための対策はPDCAで、そのプロセスを食品偽装マネジメントシステムとしてリーフレットで配布されております。

 食品偽装による製品の「売り上げ」は(例えば使用済みのPETに水道水を入れてミネラルウオーターして販売するようなものを含む)は2014年には全世界で約5兆円と推定され、世界第3位の食品企業の位置を占めるほどの経済規模となっています。

 こういった状況に対応するためには冒頭に述べたような早期警報システムの樹立が必要です。「兆候」の段階で察知し問題を把握してリスクを分析し、ある食品安全に関する事案が品質事故そして最終的に危機にならないように事案の段階で対応を決定し、行動を取ることが重要です。このために「事案検討会議」がその問題の性質と規模に応じて各国、地域、あるいはグローバルに設けられる仕組みになっています。

 また食品安全事案を事前に予測するために150名の専門家が5カ国語に対応し1日8,000の世界中のウェブサイトなどからネスレ製品の品質に関する情報をモニターしており、必要に応じて報告を挙げています。

 こちらは本年(2016年)で退任するネスレグループのCEOポール・ブーケの「品質が信頼をもたらす」というポスターで、ネスレの世界中の工場に掲示されているものです。

最後に「消費者がネスレの製品を信頼し目を閉じたままその製品を味わうことができるよう、ネスレは品質と安全において絶対に妥協しない」というメッセージを意味するポスターを紹介して私のご説明を終了させて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。


作山 巧
上保 健一  KENICHI JOHO
ネスレ日本株式会社
生産本部品質保証部部長