顧問 青島 靖次

再検討に向けて -1-

昭和六十二年七月、ポリオレフィン等衛生協議会が「牛乳、加工乳等の合成樹脂容器の承認申請について」として、乳等省令の改定の検討を厚生省に依頼した。これに対して厚生省担当課からは牛乳等に関する容器関係は、全国乳栓容器協会で検討すべきであるとの指摘があった。また、当時厚生省は衛生基準の再検討中であり、その中で容器包装関係も検討しているとのことだった。これに対応するために協会は、同年九月、日本テトラパックの島崎邦夫氏を座長に「新素材の衛生面の研究」をテーマとして技術委員会を開催した。 おもな討議内容は以下の通りであった。

(1) 現行乳等省令では牛乳、加工乳などの容器はガラス瓶・ポリエチレン製容器・ポリエチレン加工紙製容器が認められ、乳飲料などには、これらと金属缶・合成樹脂加工したアルミ箔によって密栓するポリエチレン加工紙製容器・ポリスチレン製容器が認められている。

(2) 清涼飲料水と比べて乳だけが特別扱いされているような感があるが、それは「乳幼児、病弱者のため慎重に」という主旨である。

(3) 溶出の可能性のあるものについては毒性のないことを証明するデータが必要

(4) FDA(米)とかBGA(独)等の海外規格で認可されても、それをそのまま厚生省に主張する訳にはいかないだろう。

(5) 無添加ポリエチレンにカラーリングのためにチタンホワイト(酸化チタン)を使う等は、例外容器の承認の例はある(ヨーグルト)が、牛乳用の承認例はない。

(6) 他の色の顔料は着色すると遮光性が向上するというメリットはあるが、食品添加OKのものであったとしても現状では牛乳には無理ではなかろうか。

(7) お願いしてみることは出来る、ただしテストデータは必要である。

(8) コート紙を乳等に使用することについて、省令には「紙」という規定しかない、コート紙であっても差し支えない、どんな紙でなければいけないという規定はない、破裂強度のみが必要である、無論有害物質の溶出などはあってはならないが。  

また、技術委員会では下記のような発言もあった。

―厚生省で一昨年LLの改正が進められた折、常温保存上の必要項目として、「物理的強度」があげられた。その他にも、「遮光性」、「ガスバリヤー性」の問題があり、これらを含めて乳栓容器協会が検討することになった。なお「遮光性」、「ガスバリヤー性」のデータ既に提出ずみである。

―厚生省としては、ピンホールなどの問題がない乳等の容器包装の原材料に、無添加ポリエチレン以外の合成樹脂を使うことの必要性があればそれも併せて答申すること。必要な場合は乳等省令の改正を含めて検討するとのことであった。

―今回のポリ衛協の「お願い」は常温保存可能品容器に限定していない。

―牛乳容器メーカーとしては、牛乳容器に必要な特性を先ず考えることからスタートしたい。それに必要な合成樹脂について論議するときは、ポリ衛協の「お願い」も参考になる。         

―新しい材料を厚生省に提案した場合には、その明確な理由付けが必要になるだろう。

以上のような議論の結果、乳等の容器包装が具備すべき特性について、下記の事項について審議をすすめることとした。

A 保護性
1 物理的強度
2 微生物遮断性
3 耐水性 4 科学的強度
5 気体遮断性
6 遮光性
7 風味の保持

B 衛生性  
1 合成樹脂および添加剤  
2 有害物質の溶出防止  
3 その他の物質の溶出量

C 利便性  
1 取り扱い・輸送の便  
2 開封・開栓の容易さ  
3 (再封性)  
4 (いたずら防止)

D その他  
1 散乱ごみの問題  
2 廃棄物処理  
3 経済性  
4 商品の訴求力・透明性など

以上の事柄を個々に具体的に昭和六十二年十月五日より同六十三年三月四日まで九回の技術委員会で審議した結果を取り纏め三月三十一日付で厚生省宛に要望書を提出したのである。

再検討に向けて -2-

前回(三十九)でも記述したが、昭和六十二年十月から約六カ月を費やして行われた日本テトラパックの島崎邦夫氏を座長とする「新素材の衛生面の研究」をテーマとする技術委員会以下の厚生省生活衛生局乳肉衛生課長宛の要望書という形で取り纏められた。要約を以下に掲載する。

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昭和六十三年三月三十一日

厚生省生活衛生局
乳肉衛生課長殿

社団法人 全国乳栓容器協会
理事長 浅 野 勉

【乳等容器包装の規格基準の改定に関する要望書】

牛乳、乳製品等の品種の多様化に伴い、乳等容器の性能に対する市場の要求も次第に高度化してまいりました。
食品衛生上の安全を担保すると共に、市場の動向に適応する乳等の容器包装の原材料について審議した結果に基づき、乳等の容器包装の規格基準を下記の通り改訂されるよう要望いたしますので、ご高配を賜るようお願い申し上げます。

1、 乳等の種類の分類
本要望書では、乳等の種類を次の通り分類します。
第1群  牛乳、特別牛乳、殺菌山羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳及びクリーム
第2群  はつ酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料


2、 乳等の容器包装に使用を希望する合成樹脂
1)第1群用の容器包装
ポリエチレン(添加材の使用はステアリン酸カルシウム又はグリセリン脂肪酸エステルの使用に限ります)
2)第2群用の容器包装
(1) 内容物に直接接触する部分(以下接触部と略称します)
ポリエチレン(添加剤の使用はステアリン酸カルシウム又はグリセリン脂肪酸エステル及び後記4の着色料に限ります)
ポリスチレン(添加剤を使用こともあります)
(2)(1)以外の部分(以下非接液部と略称します)
イ、次のいずれかを主成分とする合成樹脂(注※)
ポリエチレン
ポリプロピレン
ポリスチレン
ポリ塩化ビニリデン
ポリエチレンテレフタレート
(上記合成樹脂には添加材を使用することもあります)
ロ、層間の接着剤の使用を認められるよう要望します。
現行、清涼飲料水容器包装の規格基準(昭和57年厚生省告示20号)は接液部の合成樹脂だけを規定しているので、層間の接着剤は使用できることになっています。

(注※)の説明
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート及びポリスチレンを主成分とする合成樹脂とは、それぞれ基ポリマー中のエチレン、プロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート及びポリスチレン並びにスチレン又はα-メチルスチレンの含 有率が50%以上のものをいいます。

3、一部分の材質構成が他の部分と異なる容器包装(第1群及び第2群共通)
1) あけ口、注ぎ口、蓋又はキャップ等一部分の材質構成が、他の部分と異なる容器包装の使用を認められるよう要望します。
この場合前記あけ口等の部分の接液部及び非接液部は、それぞれその用途に使用を認められる材質のみから構成されることとします。
2) ポリプロピレンを主成分とする合成樹脂以外の合成樹脂を使用し、前記2に従って構成され且密封された容器包装の外側に、ポリプロピレン製のキャップを付加したものは上記3-1と同様に使用を認められるよう要望します。

4、着色料(第2群のみ改訂)
食品衛生法施行規則別表第2記載の着色料を、着色の目的で第2群用容器包装の接液部の合成樹脂に添加することを認められるよう要望します。(第1群用容器包装については現行通り)

5、構成部材の端面について(第1群及び第2群共通)
容器包装の形態によっては、紙、合成樹脂、アルミ箔が内容物に直接接触するになる場合がありますが、これら(接着剤の端面が内容物に接触するものは除外します)と内容物との接触面積はいずれも極めて僅かなので、このような使用形態を認められるよう要望します。 
以上

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この要請書が次の乳等省令改正時(平成二年十二月)においてもひとつの検討材料とされたものと思われる。
一方で協会の長年の課題である自主基準については、今まで述べて来た種々の検討課題並びに要請の対応に追われたためまだ手がつかなかったのである。当時の技術委員会の多忙さが窺われる。